川久保さんのTV出演と、これからのファッション業界について(コラム)


 



先日の川久保玲さんのTV出演が大きな話題となっています。「作品が全て」と川久保さんはずっとおっしゃられていて、どれだけオファーがあっても頑なにメディアに出るのを拒んでいました。それが、このタイミングで突如。

僕がコムデギャルソンを好きな理由はいくつかあって、服というよりもアート作品としてカッコいいと思っていること、そして一番は何かと言うと作り手の意識や背景に共感できるからです。今回の放送でもあらためてエネルギーを頂きました。(記者の質問はあまり良くなかったけれど笑)


それからもう一つ、経営者としてのビジネス手腕です。これだけ前衛的なコレクションを発表し続けながら、1000人を越える従業員を率いて毎年400億円もの売上げの結果を出されているのですからカッコいいとしか言いようがありません。


コロナによりアパレル業界全体が苦境に陥っている現代。

もちろん、コムデギャルソン社も例外ではないはずです。

川久保さんのTV出演は、戦略的にこのタイミングに出るべくして出られたのだと感じています。ですからあらためて、その手腕が凄いなと思いました。




この川久保さんの動きに絡めて、少し最新のファッション業界の話をします。

ファッショニスタの方々は周知の通り、今は世界のファッションウィーク真っ只中。世界中・何十カ国もの主要都市で行われるサーキットの終盤戦です。

コロナ禍の影響で以前のように観客を沢山招いてリアル・ランウェイショーを発表するメゾンは現在殆どございません。


例えば先日のパリ・コレクションでは、マルタン・マルジェラの春夏最新コレクションがYouTube LIVEで発表されました。僕も見ていたのですが、新しい時代のファッションの発信の仕方を明確に感じました。



何と、ずっとデザイナーであるガリアーノと作品に関わったクリエイターの会話を流しっぱなしなんです。

つまり、自分たちの物作りの思想や背景を出来るだけ全て見せてしまう。


最新のトレンドで世界のトップ・オブトップの料理人たちが自分のレシピをYouTubeで無料公開しているのも同じですけど、ファッションデザイナーも自分たちがどうやって物を作っているかの過程を見せたりする。


つまり、従来私たちがスマホの画面上で見ていたコレクションのLOOKやインスタなど「フォーマットに当てはまる完成された綺麗なもの」をただ見せるのではなく、その背景にあるデザイナーの本質とは何かを改めてちゃんと言葉で発信すること。


コロナ禍によりインスタグラムのアクティブユーザーの数は上昇(日本では老人含めて3~4人に1人が毎日インスタグラムを見ている)、

そんな今の時代、「どこにあっても良い」程度の物なんかは簡単に親指でスワイプされて淘汰されてしまいます。

ファッションも同じことが言えて、唯でさえエンド・ユーザーの購買意欲が下がり続ける中、最新のコレクションを華々しく発表したとしても、デザイナー自身の本質をしっかりと丁寧に見せないと簡単に埋もれてしまいます。


もちろん、川久保さんがTVに出て、あらためて誰にでもわかる言葉で丁寧にコムデギャルソンの精神を話したのは全て世の中の状況を見て、

今、何をすればユーザーにとって刺さるのか理解した上での確信的行動のはずです。



川久保さんは、毎朝必ず時間をかけて世界中の新聞各紙に目を通すのが習慣の人です。

ですから、作る作品が一見どんなにアヴァンギャルドであっても、そのデザインや行動は必ず時代を外さないし、的を得ています。川久保さんは、ただのファッションデザイナーではないんです。


そして、これが実際に出来るのはファッション業界のデザイナーではジョン・ガリアーノと川久保さん、たった2人だけだと思っています。


これからの時代、一番大切なのは、自分たちのブランドがどういった世界観を持っているのか、何を発信しているのか。その精神をLOOKなどの写真だけではなく、ちゃんと言葉で発信すること。

埋もれないでちゃんと人々に届くアイデンティティになるまで何年も、何十年も。

これからの時代、モードの世界で生き残るにはそれしか方法はないと思います。


ガリアーノと川久保さん、ここ最近のお二人の動きを見て強く感じました。


結果を出しているクリエイターの行動には全て理由があります。

僕も、足元をすくわれない為に、これからも見習っていきたいと感じています。