Reminiscence (EAT)

あまりの仕事の忙しさに、ここ1ヶ月リラックスしていた記憶が殆どない。 


ウチのように新規を殆ど取らずに顧客様だけで回っているような美容室の場合、忙しい12月が過ぎた後の1~3月の3ヶ月の売り上げで、大よそその年の忙しさと年間売り上げの予測が付く。

3ヶ月以上美容室に行かない人は滅多にいないので、この期間に御来店いただいた顧客様の数がその年1年間の客数と売上の目安になるのだ。


これは経営者でありプレイヤーでもある自分の自信のひとつになっていることだが、創業して12年目になるけれど、前年度の個人売上を下回った事が過去一度たりともない。お陰さまで12年間、毎年少しずつではあるが上がり続けている。この3ヶ月の動向を見る限り、今年も前年度の忙しさを超えそうである。


仕事は本当に大好きだし楽しいけれど、趣味などの様々な新しい事をインプットする時間の確保や家庭との両立は本当に難しい。常に要領良く動かないといけない。もうすぐ40歳なので、これからは体力的な問題も出てくるのかもしれない。まだまだ美容室以外にもやりたい事も沢山ある。


何はともあれ、こんな忙しい時は旨い物を食べるしかない。ということで、木曜日の夜、思い立って週末の休日用にレストランを予約。

名古屋のレミニセンスという日本屈指のフレンチレストランなのに、3日前にサクっと予約が取れてしまった。コロナになって唯一良いのはこういう事かな・・・。(とは言え、当日行ったら見事に満席になっていました)



いきなり心をつかまれたアミューズのフィンガーフード。

スナック菓子のようなサクサクの生地の上に濃厚な北海道産生雲丹とあおさのりをのせた物遊び心溢れる1品。ペアリングのシャンパンに良く合い最高でした。




このホワイトアスパラガスも凄かった。

一皿の中にこれ程までにストーリーのある野菜料理を食べたことがない。

お皿の手前~奥にかかて、底に異なる食材と調味料がレイヤー状に構成されていて、

食べ進める事に最後まで味が変化し続ける。名古屋コーチンの濃厚な卵黄も潜んでいて、エロス感もたっぷり。




車海老、ヤバかった。全部火入れの具合がヤッバイの何の!凄いです。中がレアで食感がプリンとしている車海老に気品高いアメリケーヌ、泡ソースの競演たるや。






この鰻の白焼きも気絶するかと思う程旨かった!

パリッパリ火入れ、ふっくらとした身。そこに根セロリとマスタードのサラダや添えられたわさびなど、1皿の中で何通りもの味が展開されていく。

ここで赤ワインが初めて登場(8種類もあるので写真は割愛します)

タンニン感が効いていて、合わせた時の至高さたるや。


3種類出てきたパンはどれも個性的で美味しかった。これは「あられパン」。岐阜県の有名店トランブルーとシェフが競演して作っているそうです。



この小さな器に入った美しい黄金色のスープは、わざわざ伊勢の天の岩戸の洞窟までわき水をシェフとスタッフが汲みに行っていて、その水を使って名古屋コーチンと昆布の出汁と塩のみで味付けした、身体に染み渡る慈悲深い味わいの鶏スープ。
全国からお客様が御来店されるお店らしく、こういった地物のストーリーを持ったお料理はとても良いと思いました。



この日の魚は甘鯛。もうね、写真でもわかるこの火入れ具合、やっばいです。

炭火焼きの鯛特有のパリパリの鱗と半生の身の食感がたまらないもので、ソースとの相性も抜群。



松阪牛のロースト。これも火入れが抜群。
そして三種類のソースのどれもが超ハイクオリティ。バルサミコ酢のソースと卵黄のソース、チョコレートを思わせる程濃厚な八丁味噌のソース。特にこの八丁味噌のソースなんて東京のレストランではまず出てこない。しかも一番このソースが旨かった。

高級レストランで出てくる美しく盛り付けられた牛肉は、男性器、そして女性器に酷似している。いつも、どちらだと思って食べるか迷う。
しかしこの日は3種のソースの食べ比べに興奮しすぎたのと、気圧のせいなのか最近モヤモヤと悩んでいる事があり、仕事のこととかもですが、色々な思考が肉とワインとパンでも押し流す事が出来ず、一瞬だけ押し寄せてきて、そのまま生殖器に脳内で例えている間もなく食べ終えてしまった。



メインを食べ終わり、リカーの段階になったところでイケメンのソムリエがテーブルにやってきた。

ソムリエ(以下ソ)「次が最後のワインになります。こちらに置かせていただきますが、3種類からお選びいただけます。まずはシャンパンと・・・・」

僕「え!?ちょっと待ってください!この左に置いてあるのシャートーデュケイムじゃないですか!」

ソ「さようでございます。(微笑)ただ、こちらを飲まれる場合は少々のプラス料金を頂戴致します。」

僕「そりゃあ勿論。おいくらですか?」

ソ「2000円でございます。」

僕「えぇ!!?そんなに安いんですか?本物ですよね?笑・・・って、失礼。でもプラス2000円って、水位1cmくらいですか?じゃないと偽物だ。ヴィンテージにもよるけど。」

ソ「おっしゃるとおり(微笑)、この価格で飲めるのは相当お安いかと・・・お持ちいたしましょうか?」


僕「是非、、、、是非お願いします」




運ばれてきたのは、普通サイズのグラスに水位3センチほどの物だった。

一口含んだだけで、溢れんばかりの果実、蜜、花、そして砂、鉱物、インク、髪の毛、獣めいた匂い等々、ありとあらゆる高貴さとエロスと野蛮さが濃密なアロマとなって押し寄せて来る。

2008年と若めだけれど、とてもその若さを感じない程のとにかく美味い。旨すぎる。

僕はソーテルヌの当たり外れの知識が全くないのでわからないけれど、デュケイムの当たり年のヴィンテージを飲んだらきっと旨すぎて倒れて気絶すると思う。



ソ「いかがですか?偽物でしたか?(微笑)」

僕「いや、本物でした。笑。それにしても驚きました。まさかこんなに美味しいお料理とデュケイムが飲めるなんて。今日は来た甲斐がありました。」



イケメンの男性ソムリエとの会話によって、脳内は再び、味のことに集中し出した。

そしてデザート。









遊び心のあるデザートも茶菓子も最後まで絶品だった。
こちらはシェフが幼少期に食べたお菓子をオマージュした盛り合わせで、それぞれ雪見だいふく、プッチンプリン、わらび餅、きのこの山だそうです。もちろん気品高い大人の味付け。



ああ、旨かった。大満足だ。この瞬間の僕は、完璧に満足しているし、完璧にリラックスしている。
自分にとっては大自然を除けば料理店が一番リラックスできる場所だ。ブティックもレコード屋も本屋も好きだけれど、料理店に比べれば落ち着かない。


その後会計を済まし、店を後にし、呼んでもらったタクシーに乗り込み次の行き先を告げた。

悩みだとが疲れだとか全てどうでも良くなっていた。タクシーの窓から外をボーっと眺めていると雨がちらついてきた。雨であるだけでも素晴らしいのにこの気分である。空気がとても綺麗に見えた。