ベルヴィル・ランデブー (MOVIE)


アニメーション映画の最高峰が20年ぶりにリバイバル上映中。
ほとんどサイレント映画に近いストーリーテリングは音楽が会話の代わり。20世紀初頭のマヌーシュジャズをセンターポイントに置いた完璧なまでに見事なサウンドトラックのスウィング感は、そのままアニメーションの躍動感に繋がっていく。
漫画文化発祥である日本のアニメーションは会話が多すぎる。そうではなく、映像と音楽。ジャズの生誕と時をほぼ同じくして産まれた「映画」本来の魅力。その根源へのノスタルジーとラプソディー溢れる傑作アニメーション。




この素晴らしいアニメーション映画は2003年米国アカデミー賞・最優秀長編アニメーション部門にノミネイトされ、同時に主題歌であるBelleville rendez-vous”はアカデミー賞の歌曲賞のほかグラミー賞にもノミネイトされた。(同時にノミネイトされるのは大変な偉業である)

しかしながら本作品は当時受賞を逃すことになる。「この完璧なまでに素晴らしい作品を抑えて何がその年の」ということだが、この年、アカデミー賞を受賞したのは日本の「千と千尋の神隠し」であった。




スタジオジブリの作品に関しては好きな作品もあるけれども、あまり話したくないと言うか、端的に言って苦手な作品が多い。

「千と千尋の神隠し」は確かにエキゾチックでイマジネーション豊かで派手だし正直「ベルヴィル・ランデブー」よりも、米国アカデミーには受けるだろうな、と思う。

ただ、あくまで個人としては、この作品は嫌いだ。遊郭が舞台であり少女性に対する崇拝と、特にエロティシズムの視線が、僕の性癖とは全然違うので、観ていて辛くなってしまう。

ムーランルージュが登場する魔女の宅急便しかり、宮崎駿氏の作品は度々少女を性的な目線で描く(それも子供にはわからないように暗喩的に)のがどうしても自分は苦手で受け付けられない。フェミニズムがどうこう言いたい訳ではないが、何と言うか観ていてしんどい。正直、同じアニメーションだったらディズニー映画の方がずっとずっと好きだ。





話は戻るが、この作品の劇中にはタイトルにもなっているBelleville Rendez-Vousという楽曲が様々なアレンジで繰り返し登場する。そしてサビではこんなフレーズが繰り返される。


" Swinging Belleville rendez-vous Marathon dansing doum dilou Vaudou cancan, balais tabou  Au Belleville swinging rendez-vous"


訳するとこんな感じだ。


皆でスイングしてベルヴィル・ランデブーだ。(この映画の舞台の架空の都市)

で、マラソンにダンスにドゥーディルゥーって言ってるんですけど、これは当時のフランスで「マラソンダンス」というイベントがあって、マラソンみたいに何日も何日もダンスホールで耐久でダンスして、皆疲れ果てて倒れちゃったりするんですけど、最後まで踊り続けた人が優勝っていう悪趣味な大会があって、そのマラソンダンスのことです。で、ドゥーディルゥーはステップの名前。

次にブードゥーカンカン・箒にタブーって言っています。

ブードゥーなんかはよく聞きますけど、ゾンビのことです。死体が蘇ってくるという密教の。

カンカンはフレンチカンカンのカンカンのことで、ドレスアップした女性の踊り子がハイキックしてスカートを捲り上げたり、お尻をふったりする当時の高級だけどエッチな踊りの総称のことです。

で、箒は魔女が乗っているのでお馴染み。"taboo"は勿論タブーのことですけど、このTABOOって言うのはフランスの有名なBARというかキャバレーがあって、ボリス・ヴィアンやエド・ヴァン・デル エルスケンなんかが集まっていた、所謂サンジェルマンデプレ族の中でも一番エッジな遊び人たちが集まったキャバレーの名前のことです。

ブードゥーでカンカン踊りで箒でタブーっていうだけでも既に言葉選びのセンスがカッコよすぎるのですが、で最後にベルヴィルでスゥイングしてランデヴーっていうのを繰り返す訳です。

ちなみに演奏シーンではフレッド・アステア、ジョゼフィンベーカー、イヴェット・オルネ、そして何とグレングールド(!)が登場する。

勿論こういったことを全く知らなくても充分すぎる程楽しめる映画ではあるのだけれど、

それだけで美味しい食べ物もトッピングを追加すればさらに美味しくなるのと同じで、知識として片隅にあるとさらに楽しめる作品になるのは間違いありません。