私の知るヨーロッパはもう無い(WEEKLY NEWS PICK UP特別企画)

 英エリザベス女王、死去 英王室発表

在位70年というのは本当に凄いと思うし、私が生まれた時からエリザベス女王だったわけで、それこそ私のファッションの原体験であったジョン・ライドンが"Rest in Peace Queen Elizabeth II. Send her victorious."とコメントを出しているのを見て、珍しく時代の終幕を感じてしまった。

エリザベス女王のエレガンスには男の私ですら憧れがある。あのカッコいい帽子の数々は誰がデザインしていたのだろうか。私もあんな風にエレガントに最後まで年を重ねたいものだ。

そしてこれからはキャサリン妃とメーガン妃にとても期待をしている。あの2人はセンスが良い。ウェディングドレスをサラ・バートンに頼んだあの2人がいる限り、英国のエレガンスはこれからの失われることはないだろう。



ゴダール監督、自殺幇助で91歳で死去 仏映画ヌーベルバーグの巨匠

こちらも今朝入ってきた衝撃の報道だけれど、個人的にはあまり驚くことはなかった。

映画ファンはご存の通りゴダールはスイス人なので、スイスで自殺(尊厳死)は合法である。ゴダール程の革命児であったのなら、最後はそのくらいの選び方をしても至極自然だと思ったからです。

私のクリエイティブの源流はいつだってカルチャーにある。特に若い頃に経験した映画と音楽。

特にゴダールには多大な影響を受けた。今まであまり明かしたことはなかったけど、津市万町津にあった初代・点と線の内装はゴダールの映画の影響が大きかった。真っ白に塗られた建物の外観と内装の壁、そこに赤を中心とした大胆な配色。色彩の使い方は完全にゴダール作品のオマージュだった。

そしてこれは創業以来今でも続けているが、点と線の英語表記「TEN TO SEN」の前にフランス語の"LE SALON"とつけるのも、初代点と線のテントが"LE SALON"だったのも、全てゴダールの影響である。あのテントのデザインはゴダールの映画「勝手にしやがれ」に出てくる50年代のパリのカフェをイメージした。

また、ゴダール作品に登場するヒロインのヘアスタイルは私の美容師人生において基礎を作り、今でも大きな影響を受け続けている。

そんな映画のヒロインのような素敵な髪型を自分の仕事で作りたいと願い、往年の映画女優が楽屋で使うようなクラシックなハリウッドランプ付きの鏡を特注で作った。

これが私のサロン「点と線」の始まりだ。13年前、まだ26歳の頃だった。


今朝の報道は、久しぶりにがむしゃらに走っていた、そんな20代のあの頃を思い出して、まるで外の風景が2009年のあの頃に戻ったようだった。


"Rest in peace"


静寂の朝の庭からは鈴虫の合唱が聴こえる。

秋が始まっている。



Jean-Luc Godard / 気狂いピエロ(1965年)
この映画にはピカソの作品が数多く登場する。写真はアンナ・カリーナの劇中シーンから、ピカソの作品と共に。





当時、点と線のwebサイトに掲載していた私の初代セルフ・ポートレイト写真(2009年撮影)26歳の頃。
今初めてネタバレで明かすけど、この写真は気狂いピエロの上のシーンのオマージュだった。




「勝手にしやがれ」のロケ地サン・ジェルマン・デ・プレ付近と、当時のゴダール監督(1960年)


初代・点と線外観(2009年撮影)




Jean-Luc Godard『軽蔑』(1963年)


Jean-Luc Godard「中国女」(1967年)







初代・点と線内装(2009年撮影)


私の影響を受けたヨーロッパはもう無くなってしまったけれど、新しい時代の始まりはとても良い気分だ。

来年辺り、どこかのタイミングで20年ぶりにロンドンに遊びに行ってみようかなと思っている。