国境
看守 :さあ、国境まで来たわよ。あなたはもう裁かれない。行きなさい。
囚人 :Yeah. 先生。
看守:あたしが目隠しを外したら、 向こうを向いて歩き 出して。そしてあたしのことは忘れて。 この国のことも、あなたがしたことも、全部。
囚人:いっぺんに?
看守:少しずつでいいわ。 毎日日が昇ったらこの錠剤を、施設で渡したエメラルドを沈めた水で吞んで。
囚人:それで10日後に俺は安楽死する。それが先生の国の死刑だよね。
看守 :それは……。
囚人 : いいんだ。 先生が判決を下したわけじゃないから。 先生は俺のことを忘れる?
看守 :もちろんよ。
囚人 :あんたの息子を殺して食べたのに?
看守 :あたしの子だとは知らなかったでしょ?
囚人 :人間の子だとは知らなかったし、性別もわからなかった。 オレは火星にいて、ただ腹が減ってただけだった。
看守 :いい? あなたが見た光は、もう二度と照らないわ。 あなたが聞いた声も、二度と聞こえない。 神なんかいない。 最初から。 一番最初からね。
囚人 :軽妙だ。そしてファック。
看守 : 言葉に気を付けなさい。
囚人 :ごめん。でも先生はサーフィンが得意だよね。 こんなサソリだらけの砂漠に住んでるのに。
看守 :どうして知ってるのかしら?
囚人 壁面ホログラムの待ち受け写真。先生、時計の電源切らないで寝る時あるから。あれ、地球のハワイでしょ? 音と匂いでわかったよ。
看守 :そうよ。
囚人 :あそこは天国でしょ?
看守 :行きたければ、行けるわよ。あなたはもう自由になったんだから。
囚人 :ずっと自由だよ、オレは。殺す前も、殺した後も。先生に会う前から、先生が拘束服と目隠しをしたオレの担当になって、 それから全部終わって、今こうしてる間もね。 先生はいつから自由?
看守 :もう行きなさい。 目隠しを取るわよ。
囚人 :波に乗ってる時、何を感じてた?
看守 :何も感じてないわ。
囚人 :噓だ。「自由になりたい」そうでしょ?
看守 :・・・そうよ。
囚人 :それと、「神様どうして?」 でしょ?
看守 ・・・そうよ。
囚人 :「神様、どうしてこんな瞬間まで、あたしが女であることを忘れさせてくれないのですか」でしょ?
「 神様、このままあたしが死んだら、それはどれくらいの 罪ですか」でしょ?
ずいぶんと忙しいサーフィンだよ、それは。 先生。
看守 :( 嗚咽しながら) もう、終わりよ。 あなたの治療も裁判も終わったの。 もう行っ て。
囚人 :アルバトロスが来たみたいだ。呼んでいい? 先生に見せてあげるよ。 彼らの大きな羽 を。アマゾンの花みたいなんだよ。
サバンナで彼らに会うと、蝶々や蛾が怖い奴らは死んじまう。
ねえ、先生。オレからお別れのプレゼントを。
看守 :お願い。行って・・・向こうに。 国境線の・・・あたしの、あたしの向こう に・・・。
囚人 :先生。
看守 :・・・いい わ。 あと一つだけ話していいことにしましょう。続きを言ってごらんなさい。何?
囚人 :キスし て・・・。砂に潜って、裸になって、それでキスをするんだ。
オレは先生の名前も知らないし、顔も身体も見たことがないけど、とても美しくて、でもいつもどこかに思いっ切り力が入ってる。 それを治療のし過ぎだと思い込んでる。オレは死ぬのは怖くない。
でも、先生は何重にも間違ってる。それを放ってはおけないよ。
ガラガラヘビに甘嚙みさせれば、そんなのはすぐに治る。奴らは人がキスしてる匂いを嗅ぎつけてやってくるんだよ。だから・・・。
看守 :いいわ。
囚人 :・・・ Yeah
看守 :裸になって、一緒に砂と唇を嚙みましょう。あたし、何年もキスしてないけど。
囚人 :そうこなくっちゃ。と、 僕らはいつも思っている。いつからか問題は山積みのまま。
看守 :あなたは口の中の小鳥たちを。
囚人 :君は自分の心の中にいる、自分の身体を。
看守 :スフィンクスかロボットか、ずっと考え続けている。何かが、
囚人 :星のように煌めき、
看守 :光を、
囚人 :あたしを、上から下に照らして。
看守 :ふいにあたしは自由になった。
囚人 :このまま続けさせて。
看守 :見せてあげる。
囚人 :咳をすることも、
看守 :息を詰まらせることもできる。
囚人 :この煙で。
看守 :スイッチは自分で切っ た。
囚人 :愛は穏やかで、
看守 :愛はひどくきつい。
囚人 :あたしは本当は欲しがっているの?
看守 :あなたのような、また別の中毒を。
囚人 :あたしには不可欠。
看守 :でも、あなたにもあたしは不可欠かな?
囚人 :きっと、この不穏な気持ちのまま、何かが。
看守& 囚人 :星のように煌めき。光を、あたしを、上から下に照らして。ふいにあたしは自由になった。
このまま続けさせて。見せてあげる。咳をすることも、息を詰まらせることもできる。
この煙で。スイッチは自分で切っ た。愛は穏やかで、愛はひどくきつい。
あたしは本当は欲しがっているの?
あなたのような、また別の中毒を。
あたしには不可欠。 でも、あなたにもあたしは不可欠かな?
きっと、この不穏な気持ちのまま、あたしは生まれ変わったような気持ちになる。
看守:目隠しを取るわよ。でも、すぐにあたしを見たら駄目。
囚人:看守にしてドクター。もう裸だね。オレは目隠しをしたままでいい。
だけど、覗き見をしようとする奴がいたら、淫女だろうと、天使だろうと、 オレの牙と爪で皆殺しだ。
ドクター。ガラガラヘビに嚙まれるまでキスしよう。土に埋まって。
看守 :Yeah.