飲食店が無くならない理由(コラム)




本日6月15日、私の新しい挑戦として1年前に始動させた飲食部門のBAR FILMが1周年を迎えた。




私的には事業は長い目で考えているので小さな数字の周年には全くこだわりがなく、点と線も今まで周年イベントや周年アイテムの制作はしてこなかったが(当初より点と線は最低50年は私がプレイヤーとして立ち続けるつもりで運営してますので、50周年イベントは盛大に行うつもりです)、メンバーの意向もあり今回は初めて周年アイテムを制作した。



Tシャツ、自分たちが着たいと思えるようなものを作りました!

6.5オンスのしっかりとしたコットン生地にワンポイントの刺繍が入ったシンプルなデザイン。夏場の普段着にも着ていただける可愛いデザインに仕上がったと思います。Tシャツのベースのカラーと刺繍のバリエーションで20種類以上制作しました。

欲しい方は買えるのでゲットしてください。2700円(税込2970円)です。





黒生地に黒刺繍というのも今回作ってみて、私的にはこれが一番お気に入り。



以下は、素人が飲食業を1年やってみた感想。(長いから興味ない人は飛ばしてください)

飲食業は、一言でいうと、手のかかる子供だ。お金はかかるし、儲からない。体力も削られる。でも、めちゃくちゃ楽しい。

しかも私の場合、最初から「会員制」「住所非公開」といった壁を作ったので、一筋縄にいかないのは尚更だ。

(集客と売上には今も変わらず苦戦しているけど、後述するがそれを上回る楽しさがある)


まず、飲食は、リスクが高い。日本の場合はヨーロッパや米国などの諸外国と違って難しい資格等が必要ないため、開業ハードルは非常に低い。

ただその分イニシャルコストが大きい。リアルな場を作るために初期投資が必要だし、WEBサイトやロゴやメニュー、ブランディングPR、SNSに載せる写真などのデザインへの投資も重要になる。

(私たちの場合は自分も含めた身内のデザインチームで作り上げているので、ここのコストは幸い外注するのに比べればカットできていると思う)

BAR FILMの場合は2,000万円程度のイニシャルコストだったけど、ここまでじゃなくてもそれなりの恰好のついた飲食店の開業には、資材高騰の今、テナント起業するとしてもどんなに少なく見積もって1000万円以上はかかるだろう。「いきなり1000万円のロスを計上して始めるビジネス」と考えると、今の時代、あまり合理的な感じはしない。

そして、想定以上に儲からない。


①日本の飲食店は安い、安すぎる。

海外に行く人は知っていると思うが、欧州米国、アジアのシンガポールなど先進国の平均飲食単価は、円安インフレの今は日本の3倍以上する。(ラーメン1杯3000円では食べられない)そうでないコロナ前でも2倍以上はしていた。

ニューヨークやパリでそれなりのBARに入りカクテルを飲もうと思うと、コロナ前でも20ドル以上は当然。更に国によってはチップもあるから、飲食店で働く人々の待遇や年収は日本よりずっと恵まれている。

海外に比べて日本は家賃や光熱費が安いのは事実だけど、それを考慮しても飲食単価は相当安いと言えるだろう。

私のお店ではカクテル1杯に1000円代のプライスを付けていて、一般的なオーセンティックBARと同程度か少し安いくらいのプライスを付けているけれど(オーセンティックBARは平均カクテル1杯1500円~程度だと思う)、それでも世界的な相場で見れば安すぎると言えるし、私たちが自店と比較している日本の高級ホテルのBARの相場などに比べてたら圧倒的に安いプライスだ。

じゃあ上げればいいと外野から声が聞こえてきそうだが、様々な要因でシビアな問題があり、「今はまだ」これ以上の値上げは出来ないでいるのが現状だ。


材料にこだわればこだわる程、利益率は低くなる(カクテルに使用するフレッシュのフルーツなどは足が速いので残れば全て破棄になる)。知人のレストランなんかは、フードの原価率は50%を超えると聞く。昔ながらの1食辺り数百円の定食屋なんかは原価率80%以上とかもザラだ。私たちのお店はドリンクが中心なのでもう少しだけマシだけれど、それも他業種に比べて利益率はとても低い。

本当に、日本の飲食業界の価格はあり得ない程に安すぎるのだ。



②箱の制限で時間当たりの利益上限が決まる

飲食は美容室と同じでいわゆる箱ビジネスなので、時間当たりの利益天井がある。

複数のお客様のご来店希望日が被ってしまっていて売上を逃すこともあれば、ボウズ(誰一人来ない日)で売上0円の日も普通にある。天候や気温、時期的な影響も凄く受ける。

ただしこの問題はある程度は予測できていて、空間で限定される利益をいかに拡張するかは当初からのテーマだったので、物販とEC事業に力を入れるのは最初からマストだった。

それも、「適正価格で飛びぬけて良い物」、「人々の暮らしを豊かにする商品」、であると同時に「ちゃんと売れる商品」を販売していかなくては意味がない。それで併設といった形で同時に作ったのがBAR FILM STOREであった。

あとは例えば他のレストランとのコラボイベントやギャラリー使用としても空間の貸し出しを行うなどして、普段は会員制で入れない空間だけれどイベントとしての特例日を設けて社会とのタッチポイントの機会を設置するのも、大きな利益にはならなくても大切だと考えている。

展開の理想を言えばCM撮影やドラマや映画のワンシーン、広告撮影のロケ地などスタジオ活用としても使ってもらいたいと願っているけれど、この辺りは私の営業力不足もあってまだ実現できずにいる。庭園を含むランドスケープも含めてこれだけの空間作りは国内屈指だと思っているので、いずれこの分野でも収益を上げていきたいとは考えている。


そんなこともあって、普通に営業をしていたら飲食種は儲からない。BAR FILMでも月単価で収支が赤字になった月がこの1年で3回もあった。これだけ1年間必死に働いたのに赤字月が3回も出るなんて、私がもしこの事業単発で勝負していたと思うとゾッとするし、今日の1周年記念日を機会に心が折れて閉店していた可能性もある。

(実際、3店舗に1店舗は1年で閉店しているのが日本の飲食業界だ)

飲食とは、こんな感じで利益にならない日々の連続だ。

でもこれは、仕事の対価を「お金」だけで見た話。こんなハイリスクローリターンの飲食業を日本全国にこんなに多くの人々が続けるのには、また別の価値があるからだと感じている。


とにかく楽しい飲食業界の世界


まず、単純に何かを作ることが楽しい。カクテルを作ることや、ワインを選ぶこと、料理すること、お皿をキャンパスに美しい盛り付けをすること、全てが楽しい。

コロナ渦を経て料理にハマる人が随分増えたと聞くが、その根源に「作ることが楽しい」という感覚があるはずだ。絵を描くことも髪を切る事も似た感覚があるが、「何かを作る」というのは、人間の根源欲求なんだと思う。


そして、何より人との関わりが楽しい。人が喜んでいる顔を直に見ることが出来ることは、やっぱりやりがいになる。

場を通して、クリエイティブに人と人が繋がり、何かが生まれる場面に立ち会えるのも感動的だ。

このBARをはじめないと絶対に出会えなかったであろう、面白い方々との出会いもこの1年で沢山経験した。

私の美容師も、長くしているとお客様の大切な人生のヒトコマのお手伝いをする、なんてことが何度かある。そんなことが飲食の世界でも何度もある。

つい先日もBAR FILMでプロポーズを行うお客様の舞台を私たちがセッティングしたりして、その場のお客様全員を巻き込んで大盛り上がりの一夜があった。こういったお客様の人生の大切なヒトコマを作り上げ共有できる楽しみは利益に換算できない仕事のやりがいとして、とてつもなく大きい。

BAR FILMをはじめてから、大変なこともあるけれど日々新しい刺激と感動に溢れている。


少し大きなことを言うと、アナログに自分達が作り上げ接客している空間で人々が気持ちよく時間を過ごしている姿を見ると、自分達の思想や行動が、社会に少しでも貢献していると実感することが出来る。

こんなにやりがいがあり、楽しく充実した時間を過ごせるなら、自分の儲け・利益率が低くたって良い。つまり、利他の精神。そう思ってる優しい人々がこの日本の飲食業界には沢山いると思うし日本を支えているといっても決して大げさではない。


そして日常の中で感動を求めて飲食店に集まるのは、客側としても同じ。

リアルな場だからこそ感じる温かみ、人間的な感動を求めて、AIによる支配的な世の中に変革が起きる時代だからこそ、今後未来の人々もリアルな飲食店に行く習慣は変わることはないだろうと信じている。


1周年、ありがとうございます。2年目も頑張ります。


また、お店で会いましょう。